あなたは歯科医院を定期的に受診していますか?
日本歯科医師会が2022年に行なった調査では、歯科医療機関で定期チェックを受けていると答えた人の割合は47.4%だったそうです[1]。
「国民皆歯科健診」という言葉が話題になりましたが、歯科に定期的に受診することは以前と比べ日本にも浸透してきたように思います。
さて、歯科医院での定期チェックでは何をするのでしょうか。
むし歯を早めに見つけてもらうため、と答える方も多いと思います。
痛みや腫れなどの症状が出る前から病変を発見できることは定期受診のメリットです。
では、症状が出る前の病変を見つけたら、どうしたら良いでしょうか。
昔は、「早期発見早期治療」が重要と言われていました。
病変が小さいうちに、小さい範囲で外科的な治療を行うという考え方です。
さらに、治療を行う際にむし歯が発生しやすい部位も含めて同時に治療をする「予防拡大」という考え方もありました。
先手先手で治療を行うこのような考え方は果たして本当に良いのでしょうか。
実は歯の治療というものの寿命はそれほど長くありません。
森田、青山らの報告によると、日本における一般的な歯科治療の寿命は平均して10年以下だったとする報告があります[2][3]。
人生100年時代と呼ばれる現代ですから、例えば10代で初めての治療を行えば、単純計算でその歯はその後の人生で8回ほど治療を必要とする訳です。
すでに治療をした歯の再治療というのは、当然前の治療よりも範囲や規模が大きくなります。
最初は小さい範囲だったむし歯の治療がだんだん大きくなり、全体を被せたり神経を取るようになり、根の先の病巣や歯が割れることにより抜歯となり、そこを補う治療がだんだんまた大きくなり、最終的に多くの歯を失うという歯科治療のサイクルをEldertonらが報告しています[4]。
早期に治療を行うことは、決してメリットばかりではないのです。
では、むし歯を早期に発見した後、どうしたら良いのでしょうか。
むし歯は多くの要素によって発生や進行が左右される「多因子性疾患」です。
初期の状態で発見されたむし歯は、口の中の環境を整えることにより進行を止められる可能性があります。
これは、治療ではなく「管理」という考え方です。
ただ何もせずに眺めているのではいけません。
そこにむし歯がある以上はむし歯が発生する何らかの理由があるはずです。
早期にむし歯が発見できたのであれば、むし歯が発生した理由を考え、その理由に直接、もしくは他の要素を積極的にコントロールすることにより、むし歯の発生や進行を抑制することの方が、長期的な視点から望ましいのです。
調査によると、予防歯科の取り組みとして先進的なスウェーデンと比較し、日本の歯科医師は比較的早い時期にむし歯に対して外科的に削って埋めるという治療を行うようです[5][6]。
むし歯があったから治療したと言われれば誰もが納得するかと思います。
しかし、むし歯が発生する環境をそのままにただ早期の治療を行うばかりでは、歯医者に通いながらだんだん歯を悪くするサイクルにはまってしまいます。
例え小さなむし歯でも、いや、小さなむし歯だからこそ、外科的治療を行うべきか、内科的に管理を行うべきかを十分に考えることが大事なのです。
定期的な歯科受診をされる方が増えている今こそ、定期的な受診はするけども外科的な治療の本数は減っているというような世の中になって欲しいと願っています。
1.歯科医療に関する生活者意識調査 日本歯科医師会2022年 https://www.jda.or.jp/jda/release/cimg/2022/DentalMedicalAwarenessSurvey_R4.pdf
2.森田学 歯科修復物の使用年数に関する疫学調査 口腔衛生学会雑誌1995 年 45 巻 5 号 p. 788-793
3.青山貴則 臼歯部修復物の生存期間に関連する要因 口腔衛生学会雑誌2008 年 58 巻 1 号 p. 16-24
4.Elderton RJ. Clinical Studies Concerning Re-Restoration of Teeth. Advances in Dental Research. 1990;4(1):4-9.
5.Kakudate N, Sumida F, Matsumoto Y, et al. Restorative Treatment Thresholds for Proximal Caries in Dental PBRN. Journal of Dental Research. 2012;91(12):1202-1208.
6.Mejàre I, Sundberg H, Espelid I, Tveit B. Caries assessment and restorative treatment thresholds reported by Swedish dentists. Acta Odontol Scand. 1999 Jun;57(3):149-54.
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